ファンなら楽しめるジザメリ伝: Barbed Wire Kisses


Zoe Howe 著の The Jesus and Mary Chain (以下ジザメリ) のバイオグラフィー, Barbed Wire Kisses:The Jesus and Mary Chain Story (Polygon, 2014) を読んだ.ジザメリ結成(1984年)以前の Reid 兄弟の暮らしぶりに始まり,80-90年代の音楽制作およびライブ活動,メンバーの変遷,メンバー間の関係,98年の事実上の解散,2007年の再結成に至る動き,再結成以降の活動を,いずれも多くのエピソードや関係者の話とともに振り返る内容で,ジザメリの熱心なファンなら確実に楽しめると思う.以下,簡単にメモ:

この本には,熱心なファンなら既に知っているであろう情報やエピソードが多く含まれている一方,著者が新たに Jim Reid や歴代ジザメリメンバーの Douglas Hart, Bobby Gillespie, John Moore, Ben Lurie, Phil King, それに Creation Records のトップだった Alan McGee をはじめ,多くの関係者に取材をして得た話も随所に盛り込まれ,さらにそうした話がユーモアも交えて紹介されている.ファンが飽きずに読み通すことのできる一冊になっている.

著者の立ち位置が気になるかもしれないが,この本の著者は前書きで「自分たちはアウトサイダーであり,『(流行の)舞台』の一部には決してならないという彼らの意識こそ,同じような感覚の持ち主にとってジザメリを真に定義するものなのだ」「ジザメリは変人たちを擁護する存在であり,誤解を受ける人々にとってのスターであり,他人に合わせて自分を変えることなどあり得なかった.その一点をもってしても私の心の中で彼らは特別な場所を占めている」(p. ix)と書いている.私はこの前書きを読んだ時点で著者を信用したし,自分がなぜこのバンドが好きなのかがよく分かったように思った.

本の中には,バンド名が The Jesus and Mary Chain となった経緯(p. 21),初のライブの様子(Douglas Hart によれば,お膳立てした Alan McGee はライブを見た人たちから会場で「こんなバンドのレコードを出したいなんて頭がおかしいぞ」と言われていたらしい)(p. 27),North London Polytechnic での伝説的な「ジザメリ暴動」ライブの様子(pp. 81-85),デビューアルバム Psychocandy の制作(同じく Douglas Hart によれば,メンバーの間では後世に残る名盤を制作しているという自信が暗黙のうちに共有されていたとのこと)(pp. 91-96),Darklands の制作(pp. 131-134),伝説的なローラーコースター・ツアー(pp. 177-178),Reid 兄弟の間の決定的な関係悪化と98年のアメリカ・ツアー中に起きた解散劇(pp. 207-209),再結成に至った経緯(pp. 213-218)などが詳しく書かれている.

ただ,こうしてページ数を見ると,ジザメリの初期の活動に関する記述が大きな割合を占めていることも指摘しておきたい.本文225ページのうち,デビューアルバム Psychocandy リリース時の話までで100ページ余りに上っている.エキサイティングな話はやはりデビュー前後に集中しているし,ジザメリ結成前の話も書かれているので,これには仕方ない面もある.ただ,例えばジザメリ中期のローラーコースター・ツアーについてはもっと掘り下げた話を読みたかったといった若干の不満も残った.

本全体を通じて個人的には,Reid 兄弟が対人関係において不器用で,人前に出ることを極端に嫌いながらも,自分たちがつくった最高の音楽を人に聴かせるためにはその殻を打ち破らなければならないというジレンマの中で苦しみながら,そしてそのために酒や麻薬の力を借りつつ若干はそれに溺れながら,もがきつつ活動してきた様子が特に印象に残った(私も不器用なので).とても良い物語を読んだように感じた.

なお,この本には本文のほかに,1983年から2007年までのジザメリに関連した主な出来事を年ごとに記した年誌(pp. 227-247),本文に収録された情報・発言・エピソードの出所・発言者一覧(pp. 249-253),ジザメリのスタジオアルバム,DVD,ライブアルバム,コンピレーション,シングル,ビデオ集を列挙したディスコグラフィー(pp. 255-281)もあり,資料的にも若干の価値がある.

ジザメリのファンには大変お勧めできる一冊だと思う.興味のある方は是非.
↓ペーパーバック
↓Kindle版

(Google Books 版はここ参照)

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